IR法(カジノ法案)について聞いたことがある方は多いかもしれませんが、そもそもどのような法案なのでしょうか。IR法はただ日本にカジノを建設する、ということではありません。今回はIR法の目的、メリット・デメリットなどについて説明していきます。
IR法(カジノ法案)はカジノの導入が大きくクローズアップされていますが、世界に存在するIRには広大な敷地にさまざまな体験ができる施設が併設されています。そのため、水族館や劇場のほかに日本ならではの伝統や文化を伝えられる施設、VRなどの最新技術を用いた施設の建設が予定されています。
さらに、宿泊施設やショッピングモール、レストランなど、カジノをしない方であっても楽しめる複合施設を目指していますので、家族で訪れても十分楽しめることでしょう。この記事では、IR法の目的、入場料や入場者の制限、IRによるメリット・デメリットなどについて詳しく解説していきます。まずは、そもそもIR法とはどのようなものなのか分かりやすく説明します。
参考 :「オンラインカジノとは?気になる安全性や安心に遊ぶための注意点など【徹底解説】」
IR法(カジノ法案)とは
IRの正式名称は「Integrated Resort」で、観光地域を盛り上げる施設とカジノ施設が一体となった、統合型リゾートという意味です。
国の資料によると、
我が国におけるIRの導入は、単なるカジノ解禁ではなく、また、IR事業を認めるだけのものでもなく、世界の人々を惹きつけるような我が国の魅力を高め、大人も子供も楽しめる新たな観光資源を創造するものでなければならない
としています。つまり、ただカジノができる場所にするのではなく、日本という国の魅力を世界の人々に向けて発信し、大人も子どもも楽しめる施設にすることを前提としています。では、IR法の目的について詳しく見ていきましょう。
IR法の目的
IR法の目的は大きく分けて2つあるといえるでしょう。
- 訪日外国人旅行者の大幅な増加
- カジノや複合施設による収益により、新たな財政の確保
日本は観光先進国を目指しており、IRを建設することによって2030年に訪日外国人旅行者の数が6000万人になると予想されています。この日本型IRを拠点にして、更なるインバウンド(外国人による日本への旅行)が期待でき、日本の魅力を世界に伝えることかできるでしょう。
さらに、海外からの旅行者が増えることで新たな財源を確保することにつながるため、より日本に住む人々の生活が豊かになっていくかもしれません。
IRは世界各地にある
IRというと、アメリカのラスベガスにあるものが有名かもしれません。しかし、近年ではシンガポールやフィリピン、韓国、マカオといったアジア周辺にも次々建設されています。経済情勢などの理由もあるため一概にはいえませんが、シンガポールではIRを開業してから4年で国全体の観光客数が6割増加し、観光収⼊にいたっては9割増加したというデータもあります。
日本は世界で初めてIR法(カジノ法案)を創立し、民間企業の自由で大胆な発想を活かしながら、滞在型観光地になれるよう国の政策として後押ししていく方針のようです。
IR法には利用者・事業者ともに規定がある
IRでは、宿泊施設やエンターテイメント施設などのほかにカジノ施設も建設されます。そのため、ギャンブル依存症への懸念からさまざまな規定が設定されました。
例えば、⼊場回数を⻑期(1カ⽉程度)、もしくは短期(1週間程度)で制限しています。さらに、入場時は本人確認が必要になるなど誰もが健全に利用できるようにするため、ルールがあるので覚えておきましょう。ここでは、IRの利用者とカジノ事業者の規定を紹介します。
利用者が守るべき規定
- 以下は、IRで利用者が守るべき規定についてまとめたものです。
- 年齢制限:20歳未満の⼊場禁⽌
- 入場料:6000円(外国⼈旅⾏客は無料。24時間単位で⼊場料が加算されます)
- 入場回数:週3回まで・月10回
- 本人確認方法:日本人・在日外国人はマイナンバー、顔認証。外国人観光客はパスポート
- チップの購入法:現金のみ
- カジノ税:カジノに得た収入の30%程度
今現在発表されている内容ですので、今後変更になることもあるかもしれませんが、頻繁にIRに行くことは難しいようです。入場料は高いように感じるかもしれませんが、シンガポールの入場料は約8000円ですので、無難な価格といえるでしょう。
カジノ事業者が守るべき規定
次に、カジノを運営する事業者が守るべき規定を紹介します。
- カジノ業務に対する規制(種類・⽅法の制限、不正防⽌のための措置など)
- カジノ⾏為(ゲーミング)に関する規制(⾦融業務の限定、広告・勧誘の制限など)
- カジノ事業を含むIR事業に関する規制(業務監査の実施、業務⽅法書の認可など)
IR事業者のみカジノ事業の免許が付与されており、選ばれた企業のみが参加できるようになっています。カジノ関連機器(スロットマシンなど)は技術的基準をしっかり設定し、イカサマができないように基準に適合することを義務づけているため、安心楽しむことができそうですね。
IR(統合型リゾート)の候補地はどこ?
IRが実際に建設されるとしたら、どの辺りの地域にできるのでしょうか。国はIRを建造するのは全国で3箇所までとしていますが、現在有力候補といわれているのが大阪府、神奈川県、和歌山県、長崎県の4つです。北海道虻田郡にある留寿都村や北海道苫小牧市、千葉県の幕張も当初立候補していましたが辞退してしまいました。
最有力に挙げた候補地のほかに、愛知県と東京都が名乗りをあげています。中でも、愛知県は県と市が別々に立候補しているため、その結果にも注目が集まっているようです。
IRの候補地
それでは、IRの候補地について詳しく説明していきます。
まず、大阪府は大阪市内にある大阪湾に建設された埋め立て地「夢洲」を候補地に挙げており、神奈川県は横浜市中区の横浜港にある「山下ふ頭」に誘致するとしています。次に和歌山県は和歌山市毛見沖の和歌山湾にある人工島「和歌山マリーナシティ」、長崎県は佐世保市にある「ハウステンボス」をそれぞれ候補地としています。
愛知県は県が常滑市にある「中部国際空港(セントレア)島」、名古屋市は市内の中心部や名古屋港の周辺を検討しており、「金城ふ頭」も候補の1つとなっています。東京都は臨海副都心の周辺に誘致する計画を発表していますが、他の県に比べると出遅れた感は否めないでしょう。
IRは日本国内に住む方だけでなく、訪日外国人もターゲットにしているため、利便性の良い立地が候補地として選ばれるかもしれません。国は2022年前後にIRの候補地を選ぶ予定ですが、コロナウィルスの影響で遅れが出ており、現地で反対の声もあるため時間がかかることが予想されます。しかし、日本国内で安全にカジノが楽しめるだけでなく、新たな財政源になるかもしれないので建設を期待する声も多いようです。
IRを導入するメリット・デメリット
冒頭のIRを設立する目的のところで軽く説明しましたが、IRを建設することによってカジノや周辺の複合施設で収益が発生するため、新たな財政の確保が期待できるというメリットがあります。しかし、国内にカジノができる施設があることで、ギャンブルへの依存が問題視されています。
このように、国内にIRを導入することでメリット・デメリットが発生することが考えられます。まず最初に、メリットについて詳しくみていきましょう。
メリット
IRが日本国内に建設されることにより、どのようなメリットを得られるのでしょうか。一般的には以下の4つのメリットがあるといわれています。
- 多くの人がIRを利用することで生まれる大規模な経済効果
- 大型の施設ができることで雇用の機会が増える
- IRができることでその観光地に訪れる人が増え、周辺の地域の活性化につながる
- 訪日外国人旅行者が増加し、日本の魅力が再認識される
それぞれどのようなメリットなのか解説していきます。
大規模な経済効果
IRはカジノだけでなく、統合型リゾートとしてホテルやショッピングモール、さまざまなエンターテイメント系の施設ができる予定です。そのため市場規模は1兆5000億円以上ともいわれており、非常に高い経済効果が期待できます。
また、日本は国際会議のシェアが年々低下している傾向にあるため、IRを導入することでMICE施設(Meeting、Incentive、ConferenceまたはConvention、ExhibitionまたはEventの4つの頭文字を合わせた言葉で、企業の会議やイベント会場、国際会議場として使用できる施設を指す)が建設されることで、国際競争力の向上が期待されています。"
雇用の機会が充実
エンタテイメント施設やホテル、レストランのようにさまざまな施設が建設されることにより、雇用の需要が増えることは大きなメリットといえます。そもそもIRの施設を建設するためには多数の建設会社が必要なるため、多数の業種で雇用の機会が増えるでしょう。
カジノ施設では、カジノディーラーのようなゲームを進行する人間が必要になるため、就職先の選択肢が大きく広がりそうですね。まだ数は少ないですが、日本にもディーラーについて学べる専門学校があります。
IR設置による地域の活性化
IRが完成すれば、一度は訪れてみたいと思う人はかなり多いでしょう。そのため、国内中から観光客が押し寄せてくるかもしれません。そうなれば、IRだけでなく周辺の地域に立ち寄る可能性も高くなります。例えば、カジノで遊んでから周辺地域にあるホテルに泊まったり、一旦IRから出て昼食や夕食を楽しんだりする人も出てくるでしょう。さらに、訪日外国人観光客が訪れた場合、日本を気に入ってもらえれば次回訪日した際に、違う地域に足を運んでくれることも期待できます。
訪日外国人の増加
訪日外国人にIRのカジノや併設された施設を利用してもらうことで、新しい財政を得ることができるかもしれません。世界にあるIRの利用者は、数日間滞在することも多いため、他の地域に移動しなかった場合でも高い収益が期待できます。ちなみに日本型IRは、カジノが中心ではなくエンタテイメント施設やレクリエーション施設などの集客施設が中心となる予定です。そのため、訪日外国人の方が仕事で訪れたり家族で訪れたりした場合でも、十分楽しむことができるでしょう。
デメリット
IRを建設することで得られるであろうメリットについて説明しましたが、場合によってはデメリットが発生するかもしれません。
以下は特に発生する可能性があるデメリットです。
- ギャンブル依存症の方の増加が考えられる
- マネーロンダリングに利用される恐れがある
- カジノができることにより、IR周辺の治安の悪化が懸念されている
特にギャンブル依存症はカジノだけでなく、競馬やパチンコなどのギャンブルでも依存症患者の方がいるため、起こりうることだといえるでしょう。それでは、IRのデメリットについて解説していきます。
ギャンブル依存症の発生
ギャンブル依存症は、主にギャンブルを止めたくも止められないといった症状になります。一見ただのギャンブル好きに思えるかもしれませんが、ギャンブル依存症はれっきとした精神疾患のため、自分の力で治すということが難しいようです。現在、日本にはギャンブル依存症の方は280万人以上いるといわれており、IRでカジノができることによって更に増加する可能性が懸念されています。しかし、日本のIRは入場料だけで1日6000円かかりますし、利用回数も制限があるなど日本政府がしっかり対応しているので、ギャンブル依存症になりにくい環境だといえるでしょう。
マネーロンダリングの危険性
マネーロンダリングとは、犯罪や不正な取引などで得たお金の出所を分からなくさせるため、他人名義の金融機関の口座に送金したり株を購入したりすることです。資金洗浄といわれることもありますが、マネーロンダリングは法律で禁止されています。日本型のIRのカジノは今のところクレジットカードが使用できず現金のみなので、マネーロンダリングがしやすい環境といえるかもしれません。IRがマネーロンダリングができる場所になってしまうと、国内外問わず犯罪の温床になりかねないので、厳重な対策が重要になります。
カジノ周辺の治安の悪化
金銭的な問題が考えられるからかカジノなどのギャンブルに対し、良くない印象を持つ方も少なくありません。そのため、日本国内にIRが建設されることによって、周囲の治安が悪くなるではないかという意見もあるようです。絶対治安が悪化しないとはいいきれませんが、その点は国も懸念しているところではありますので、しっかり対応してくるでしょう。また、IRは富裕層を対象としているため、敷地内の安全性は高いといわれています。
IRはいつから実施されるのか
ここまでIRについて説明してきましたが、いつ頃オープンする予定なのでしょうか。コロナウィルスの発生により全体の進行が遅れているため、IRの候補地もまだ決まっていない状態です。候補地が決まった後は事業者の選定、カジノ管理委員会の発足とまだまだやることがあります。そのため、実際にオープンするのは2025年以降といわれています。ここでは、現在の状況も踏まえてIR推進法の発足からオープンするまでの流れを解説していきます。
実際にオープンするまでの流れ
IRがオープンするまでの流れについて知るには、そもそもIRの歴史について知ることが重要になります。
IRは2016年に「IR推進法」が成立したことから始まります。当初はオリンピックに間に合うのが理想でしたが、遅くても2022年頃にオープンできると考えられていました。しかし、コロナウィルスの発生などさまざまな事情により、当初の予想よりもだいぶ遅れている状況です。2021年4月時点ではカジノ管理委員会が設立され、IR基本方針について話し合っている段階となっています。それでは、順を追ってオープンまでの流れをみていきましょう。
IR推進法が発足
「IR推進法」(特定複合観光施設の整備の推進に関する法律)は2016年12月に施行されました。IR推進法は、カジノだけでなくホテルや商業施設、エンターテイメント施設などが一体となった統合型リゾートを推進する法案です。国会に掲出されたのは2013年ですが、そこから国会で審議を重ねて施行に至りました。この法案では、IRを建造する区域を決め、国の監視と管理のもとで民間事業者が運営できるようなルールを定めています。そのため、この法案はIRの基礎といえるでしょう。
IR推進本部の設置
「IR推進本部」とは、そもそも2017年3月に内閣に設置された機関のことです。当時、本部長には内閣総理大臣を務めていた安倍晋三氏が就任し、副部長には菅官房長官が就任しています。このIR推進本部では、IRに必要な法の整備や開業するときの流れなどを決めています。
カジノを日本で問題なくプレイできるような環境にするため、全6回開催されており法律や全体の流れを決めた後で、その内容を国会に掲出しています。
IR整備法の成立
「IR整備法」は2018年7月に、特定複合観光施設区域整備法として発足しました。IR推進法に比べると、より具体的にカジノを営業するための内容を定めています。内容としては入場料や入場回数、国への納付金、カジノ管理委員会、罰則などが挙げられます。このIR整備法により、カジノを運営するために事業者が取得するための資格や、ギャンブル依存症を防止するための施策などを整えています。そして、法律が成立した後はIRの候補地や事業者の公募・選定が進めることになります。
ギャンブル等依存症対策基本法を法案
「ギャンブル等依存症対策基本法」では、ギャンブルなどの依存症の発症、進行、再発の段階に応じて適切に対応し、本人や家族が円滑に日常生活を送れるように支援することを目的としています。国立の病院など専門的な施設と連携をして、国民が安全に暮らすことができる社会の実現を目指しています。47都道府県と20の指定都市は、依存症の専門医療機関・治療拠点機関、精神保健福祉センターなどを設立することで、医療体制と相談体制を整えています。
カジノ管理委員会の設立
「カジノ管理委員会」は日本の行政機関にあたります。内閣総理大臣の管轄下に置かれた行政委員会で、IR整備法にもどついて2020年1月に設立されました。IR整備法でカジノの運営に関して具体的な内容が決まったので、カジノ管理委員会では国の監視、管理のもとで健全なカジノ施設の設置、運営に関する安全の確保を図ることなどを目的としています。そのため、カジノ管理委員会にはカジノ事業者などの健全性や事業者の排除、または行政処分が求められています。
IR基本方針の決定
「IR基本方針」は事業者の選定基準などを含む基本方針のことです。2020年1月に決定される予定でしたが、カジノの誘致を巡るさまざまな問題があり、先送りされることになりました。しかし、IR自体が中止になったわけではありません。同年10月に新たな基本方針が国会に掲出されています。コロナの影響もあって事業者の投資力や資産が低下傾向にあるため、IRの建設は全体的に1、2年程度遅るといわれていますので、今後の動向に期待しましょう。
候補地を選定
IRの候補地は全国で3箇所までと決められています。今のところ大阪府、神奈川県、長崎県などが有力視されていますが、愛知県や東京都も立候補しているため、まだどこになるかは分かりません。IRは国内に住む方だけでなく、国外からも訪れる外国人旅行者も訪れますのでインフラ整備が重要になります。大阪府や神奈川県は港の近くを候補地としているため、利便性の良さも魅力となっています。どこの候補地になっても特色あるIRになりそうですね。
事業者の選定
国がIRの候補地を選定した後は、立候補した自治体が事業者を決定することになります。事業者は自分のところを選んでもらうために、イベントやセミナーを協賛するなど独自のアピールをしているところもあるようです。事業者によってIRが個性が出でくるので、どのようなところが選ばれるのか注目ですね。カジノ管理委員会がしっかりカジノ事業者を監督するだけでなく、事業者の免許に対する審査しますので、公平性が保たれるでしょう。
IR事業に着手
IR事業者が決まったことで、ようやくIR事業・開発となります。IRは事業者がすべて決めるのではなく、候補地として選ばれた自治体や国と協議をしながら進めていきます。内容が確定したら、カジノや併設施設の建設が始まることでしょう。
IRの開発が始まれば、オープンまで大して時間はかからなそうです。国の構想では、日本の文化や伝統を伝えられる施設も盛り込まれるとのことですので、どのようなIRになるのか楽しみですね。
まとめ
今回はIR法(カジノ法案)について解説しました。IRはまだ候補地が決まっていない状態ですので、どこになるかは分かりませんが、カジノ以外にもホテルやショッピングモール、MICE施設などが建設される予定です。そのため、ビジネスや家族連れでも利用できる観光地になるでしょう。
IRが建設されることによって、ギャンブル依存症や治安の悪化について不安を抱く声もありますが、国内だけでなく国外からも大きな注目を集めることで高い経済効果が期待されています。さらには、雇用の機会が増えるなどIRによって受けられる恩恵は大きいでしょう。